第一章 精神障害発生(鬱病)
4.精神病院の中
【まともなコミュニケーションと久々の外出】
外出できる喜びで浮き浮きしながら昼食後に歯を磨いていた時だったと思う。
突然、私のこれまでの気持ちや態度を変えるきっかけとなる、ある出来事が起こった。
私が、「“多動症”っぽいな。」と感じていた
患者から「名前なんて言うの?」と聞かれた。
「金子です。」
「なんて呼ばれている?なんて呼んだらいい?」
「う〜んそうね、『カネゴン』とかでいいよ。私はなんて呼べばいい?」
「う〜ん、何でもいいけど、『ひろさん』でいいよ。」
「でも残念だな、水曜日には、私別の病棟に移るんだよね。」
とにかく、
そんな他愛もない、実にあっさりした会話をした。
これまで、ダイニングルームにいる時、多少は『気ちがい』達と話をすることもあったのだが、
ちゃんとお互いに意思の疎通が感じられるコミュニケーションと呼べるようなものは、これが始めてだった。
予定通り、私は、午後散歩に出た。
散歩といっても、それ程広くない病院の敷地内をうろちょろするぐらいだ。
始めての外出なので、ケースワーカーの人に敷地内を軽く案内してもらった。
喫煙場所や、トイレの場所、どこからどこまでが行ける範囲なのか、そんな事を5分ぐらいで簡単に説明された。
早速、私は、青空のもとでタバコを吸える喫煙場所に腰を下ろし、一服した。
やはりタバコはうまい。
これまで、彼と同居している間は、タバコを止めていた。
タバコは大学時代から吸い始め、社会人になっても彼と付き合い始めるまでの数年間は吸っていた。
しかし、どこから来る自信なのかは定かでないが、私は「禁煙しようと思ったらいつでもできるな。」と考えており、実際、彼と付き合い始め、彼が嫌がったのを機に、私はきっぱりとタバコを絶っていた。
他の人が吸っていても特に吸いたくなるような衝動もなく、何も苦労せずに実にあっさりと禁煙には成功していたのである。
だが、大量服薬の一件以来、彼から離れられ鬱々としていたころから、また、タバコを吸うようになっていた。
外出できるのは、16:00まで。13:00ちょっと前に外に出たので、外出時間は3時間もあったのだが、久しぶりに外に出たせいもあったのだろう、心
地よい春を実感させるのどかな天候は、3時間をあっという間に終わらせてしまった。
時間が来ると、しぶしぶと病棟の出入り口に戻り、中に入った。
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