第五章 鬱病再発生
2.無気力は病気か?
【退院後の生活】
退院後も元気が無い状態が続く。
それでも、「仕事を探さなければ」との観念から、数社ほど就職活動を行った。
しかし、結局どれも駄目。
この不況下の中、さして優秀でもなく仕事にブランクのある私では、当然の結末であろう。
それでも、それなりに前向きに動いていた退院直後の数週間はまだ良かった。
退院中に溜まった焦りの反動として、多少の就職活動は出来たのだろう。
数社の転職活動の後は、全く無気力で、殆ど何もせず家に引きこもるような日が続いた。
ただ、元彼との話し合いで、また彼のマンションで同居を始める事になっていたので、その事も気にかかっており、就職活動の前に引越し作業が先だろうとも考えていた。
しかし、引越し作業も捗った物ではない。
引越しが決まってからも2週間程は何もしていなかった。
そんな折、連休を利用して両親が引越しの手伝いに来てくれたので、それからやっと、引越しの作業も少しずつ進んでいった。
人にしりを叩かれなければ何もしない。
期限が迫っているものしか作業が出来ない。
殆ど無気力で、食べては横になりテレビを眺めているような堕落した日々。
ろくに動く事も無くなり、食生活のバランスも悪くなり、気付くと、私はこれまで経験した事の無い体重まで太っていた。
退院後から換算すると10キロ以上の増量である。
そんな事を自覚すると、嫌でも「痩せなければ」と言う強迫観念に駆られる。
しかし一方、誇大な暇があるにも拘らず、ダイエット活動すら出来ていない。
やらなければならないと思う事は沢山ある。
けれども、その思いとは裏腹に自堕落な生活をしている自分が居る。
もう、自分で自分の事が嫌になる。自己嫌悪。
「今は病気なんだから仕方が無い」と自分に言い訳をついているだけでは無いだろうか。
確かに、こんなに何もやる気が無くなる、何かに取り組む意欲が無くなる、と言う状況は、成人してから初めての事である。
元から私は感情の起伏が少ない質であったが、こんなにも無気力になった試しは無いと思う。
「これが鬱なんだ」と言われてしまうと納得してしまいそうではあるが、どうしても「鬱」で片付けてしまうのが逃げ口上のようでたまらない。
一年前の入院時は、自身の制御が利かない精神の暴走に恐ろしさを感じた事がある。
それは、入院中のある晩、試しに睡眠薬を飲まなかった時に自覚したものだ。
胸の中にどす黒く思い流動体が蠢き、不安・焦り・後悔・怒り、ありとあらゆる感情がごちゃ混ぜになったそれが精神を覆った。
もうパニック寸前の耐え難いものだった。
しかし、今はどうだろう。
睡眠薬など無くても、あの流動体が胸を覆う気配は無い。
ただただ、思考能力が落ち、やる気が無くなり、無駄に食い、生きている。
この様な状態は、病気なんて呼べるものではなく、それこそ「根性論」で型がつきそうである。
主治医は診断の度に、私の元気の無さが印象に残るようである。
それもその筈、一年前の病状は、彼に対する怒りも含めた攻撃的なものだったが、とにかく自ら喋るうるさい奴であったから。
そんな状態の私を主治医は、「典型的な鬱みたいですね。」と言う。
そうなのだろうか?
鬱状態とは、こんなに楽なものなのであろうか。
楽と言ってしまうと語弊があるかもしれないが、少なくても今の私は苦しく無い。
薬が効いているからなのかもしれないが、鬱々とした忌まわしい感情が湧き上がって、いても立ってもいられない状態になる訳ではない。
確かに、今後の事、将来の事を考えてしまうと、いろんな不安は出てくる。
しかし、これは当たり前の事だろう。明らかに「鬱だから」と言うものでは無い。
普通の人が普通に悩むのと同じレベルに感じる。
とにかく、退院後はただただ無気力で、自堕落で、駄目である。
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