鬱病生活記

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 目次
 はじめに
 第一章

 第二章

 第三章

 第四章

 第五章

 第六章

第三章 鬱病者としての日々

2.調停待ちの日記

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7月25日(土) 20:30頃

【突然の来客】

今日は、非常にこのページを書くのが億劫だ。キーボードを打つ手も重い。これを書かなければならないとPCに電源を入れるも、一時間程経って、漸く書き始めているところだ。

これは、今日、非常に神経を使った出来事があったからである。私は、その出来事が終わった後、疲れて横になり、二時間ぐらい軽く眠った。起きた後、餡パンやらアイスやらで腹を膨らませた、この日記を書こうとPCに電源を入れたのだが、PCが起動し始めている画面を見つつ、色々な思いが頭を駆け巡り、動悸が激しくなった。私は、PCから離れ、『デパス』を飲み、タバコを2〜3本吸って、落ち着こうと試みた。しかし、簡単に落ち着けることも無く、ボーッとテレビを眺めたり、横になったりしながら、時間を費やしていた。

さて、その出来事の事だが、待ちわびていた『調停』の連絡では無く、『調停』を起こす筈の彼が、一人でこのマンションにやって来たのだ。

私は、いつもの様に、お昼頃まで、布団の中に居た。不図、携帯電話が震えているのに気付いて起きた。昨日、病院に行く時、マナーモードにしてそのままであった携帯電話は、ベルが鳴る事も無く、3〜4コールで、留守電に切り替わるようになってあった。布団から這い出し、出る事の出来なかった携帯電話を開いて着信履歴を確認すると、12時半頃から、3回程、
10分程起きに彼からの着信があった。私は、どうやら3度目の着信時に気付いたらしい。慌てて折り返し電話をかけると、このマンションの近くにある彼の掛かり付けのクリニックへ来たついでなのか、ここに来て話をしたいと言う事だった。私は、「愈々、今の相手と喧嘩でもして、戻ってきたくなったのかな?」と変な勘ぐりをしながら、彼が来ることを了承し、彼が来るのを待った。待っている間に、天気が良いのを確認し、私は洗濯機を回した。そして、流石に落ち着かないので、『デパス』を飲み、タバコを吸った。

最寄りの駅にある喫茶店で昼食でも摂っていただろう彼は、電話から15分程で、マンションへやって来た。彼は、ドアの前までくると他人行儀にインターホンを鳴らした。私は、インターホンに出ると、「鍵開けているから、どうぞ。」と言いて、玄関まで行った。彼が玄関を開けた時、私は「どうぞ・・・、って言ってもあなたのマンションなんだから、変かな。あなたも自分のマンションなんだからインターホンなんて押さなくて良いのに。」なんて言いならが、彼を招き入れた。
彼は、俯き加減で元気が無い。代わって私は、興奮する事も無く妙に落ち着いていた。そんな私は、冷静に居間に座布団を敷き彼を座らせ、いつも開けっ放しの窓を閉めてエアコンを入れた。

話を始めたのは私の方からだったと思う。「彼女と喧嘩でもして上手くいかなくなったの?」とストレートに思っていた事を口にした。彼は、「そう言う訳では無い。」と答える。私はついでに、「今の彼女は、病院行くようになったの?あなたが最初電話していた頃は、病院に行かせようとしていたじゃない。それは、成功したの?」と聞くと、彼は、「それはどうでも良いだろう。」と回答を避けるので、「なんで?」と返すと、「彼女のプライベートの事について、第三者に話すのは良くないと思っているから。」と答えた。私は、「そうか、私は第三者扱いなんだ。直接電話で話たり、(一瞬だけだが)顔を合わせた相手なんだけどな。」と思いつつも、この話題は切り上げた。
そんな話の結果、「なんだ、別に復縁をしに来た訳では無いんだ。」と思い多少落胆しつつ、会話を続けた。軽く世間話やらを交えつつ今回やって来た理由を尋ねると、どうやら『調停』を起こす事に躊躇していて、その前に2人で話し合いをしたいのだと言う。私は、「2人で話し合いすると言う事になるとしても、私の主張は『内容証明』で送った通りだから、それの何処が違うのか、あなたの主張を聞く事から始まるんだけど。今やる?」と聞くと、「どの道、そうなるんなら・・・。」と俯き加減で呟いたので、私は送り返されていた『内容証明』と、彼が主張を書けるように数枚の紙とペンを用意して、彼の前に戻った。私は、「どうする。今本当にやる?」と迫ると、彼は俯き気が重そうにしていた。
本題に入る前に、彼が午前中に行っていたクリニックで、鬱病用の薬を貰ってきている事を知っていた私は、「流石にこの状態で、これをやらすのはまずいな。」と思い、「今は、辞めておこう。あなたの状態を見ていると、今は無理だね。」と言って、用意した物は机の上に置いて、また色々と話をする事となった。
私は時折、換気扇の下に行きタバコを吸っては、彼の元に戻り会話をすると言う様な調子だった。やはり、人と話していると、どうもタバコが吸いたくなってしまう。無意識に緊張しているのだろうか。
そんな会話の中、私が「今回の件は、大量服薬の直後、あなたの両親に『別れる事になった』と手紙で知らせたし、あなたがあの女性の所から出てきたのを目撃した日、直接電話もしちゃった。私も凄く混乱していたから。」と告白すると、彼は急に動揺して「何で、そんな事をしたの。両親は関係ないじゃないか。言いたい事があれば僕に直接言えば良かったのに。」と言って泣き始めた。彼が泣いている間、私は、換気扇の下に行き、一服した。そして彼の元に戻り、「あなたの両親に連絡した事で、あなたが傷ついたなら謝ります。ごめんなさい。でも、あなたを通さなくても、あなたの両親と私の間で人間関係はある。私は、あなたの両親に『結婚を前提にお付き合いさせていただいております。』と挨拶していたし、あなたの両親も、その事に非常に安心と喜びを感じていると仰って頂いていた。直接話ぐらいしても良い間柄だと思いますけどね。それに『僕に直接言えば良い』なんて今更言っても、あの頃は、私からあなたに何か連絡するのは迷惑だって態度だったじゃない。」と毅然と答えた。彼は一通り泣いた後、「もう過去の出来事だから。起こってしまった事なら。」と言い、諦めが付いたのか、もうどうでも良くなったのか、興奮は収まった様子だった。
私は、彼に対して「あなたは、自分の事を差し置いて、周りの事ばかり気にする。そして、他人の問題を勝手に自分で抱え込む。だから、苦しくなるんだよ。ちなみにそう言う人って『アダルトチルドレン』なんだって。あなたの子供の頃の話を聞いた事あるけど、あなたはきっと『アダルトチルドレン』だよ。まあ、私もその気があるからあるから、人の事言える立場じゃないかもしれないけど、もっと自分の主張をハッキリと言えるように開き直った方が良い。あなたも鬱病になって私と別居していた頃、『5時に夢中!』見てたでしょ。あそこに出てくるコメンテータの人たちの様に、『自分はこうだ!』って開き直った性格にならないと、ずっと苦しいままだよ。」と、アドバイスだか何だか良く分からないような事を言った。彼は、「そうなれれば良いんだけどね。とてもそんな風になれそうも無い。僕は、例えば誰かとトラブルがあった時、2対8で相手の方が悪かったとしても、2割は自分にも責任があると思って、譲歩してしまう質なんだ。この性格を変えろと言われても、無理だよ・・・。」と後ろ向きな回答をした。実は、私も『2対8で相手の方が悪かったとしても、2割は自分にも責任があると思って、譲歩してしまう質』で、入院中の診察の際、主治医に自分の価値観として同じ様な事を言ったのを思い出し、物凄く共感を覚えながら、「それ私と同じ。私もそう言う考えだったんだけど、それを変えていかないと今の世の中は生き難いから、変えれるように努めようと思っているんだけどね・・・。」と答えた。
ちなみに、私がこの価値観を主治医に披露した際、主治医は「それって、ガンジーみたいな考え方?」と返して来た。それについて私は、「ごめんなさい、ガンジーの事、それほど知らないので良く分かりません。」と率直に答えた。(暇があったら、マハートマー・ガンディーの事でも勉強しておくとしよう。)
彼は『調停』を起こすにあたって、私から何のリアクションも無かった為か、大分悩んで情緒不安定になり、また『鬱病』らしき症状が出た様だ。正直、こんな状態では、今日何らかの結果を出すべきでは無いだろう、お互いの為にも。
そんな事で、話題は色々と飛びながら、結構会話を交わしたのだが、彼が縒りを戻すつもりが無い事を確認した私は、「とりあえず、2人で話し合って『示談』にするか、『調停』を起こしてもらうかは、考えさせて下さい。今は結論が出せません。」と言って2週間後に、この事について返答するよう、彼と約束するに至った。
季節も変わって夏物の服が欲しくなったのだろう彼は、「ちょっと、物を持って行っても良いかな。」と私の了解を得て、荷物を纏め、帰る支度をしだした。その間、私は布団の上に寝転んでいた。その時、私は既に大分疲れを感じていた。
彼は、支度が終わったらしく、おずおずと自室から私の所へ戻って来て、「それじゃあ、行く。」と言うので、重い体を起こして、私は玄関まで付いて行った。私は、単純に彼の鬱気味の状態を気遣って「大量服薬をした私が言うのもなんだけど、投げやりな行動はしないように。」と言って彼を見送った。

彼が出て行った後、室内でタバコを吸えるように、窓を開けてエアコンを止めた。そして、一服した後、横になりそのまま眠ってしまったのである。

今は、彼との件をどのように処理するか、具体的には『示談』が良いか『調停』が良いかと言う事なのだが、これについてはとても考えられない。とりあえず、来週の診察の時に主治医に相談でもする事にしよう。それまで、この事は、なるべく頭の中に置かないようにする。動悸が激しくなるから。


ちょっと、ここのタイトル『調停待ちの日記』が不釣り合いな状況になってしまった。今日は、日記を書くことすら面倒だったが、頭の体操として日記は続けたいと思う。タイトルを変えるのも面倒なので、暫らくは、このままのタイトルで、次ページ以降も書かせて貰う。


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